9月のFlyFishing
知床ペキンの鼻のカラフトマス釣り 僕がこの知床先端部への釣りを始めたのは昨年からだ。それまでは道東海域や、オホーツク、日高方面へ時々出かけるくらいで、本格的に狙ったことなどなかった。この手の鱒は食用用途であり、食うのであれば買って食ったほうが漁師の生活面といった社会性があるだろう(笑)と考えていた。僕はアメ鱒釣師であって海釣師ではないと考えていたし。 しかしアメマス狙いで行った道東の某海岸で、強烈な引きを味わって、その走りにすっかり惚れてしまったのだ。その時は数本のヒットで幸運な1本以外はすべてバラしてしまった。そんな話をしたところRDHのHiroshiさんが知床の渡船の釣りを紹介してくれたのだ。シーズン終盤ながら急遽予約をして船上の釣師となった。結局そのシーズンは2回渡ってしまった。 今回も前回渡してもらった、大輝丸を予約した。海の匂いが強い石村船長・・つまりは色が黒い。そして釣り船の操作が機敏だ・・・つまりは相当なスピード狂である。だから着座位置には気を使わなければいけない。しぶきに濡れたくなければ先頭側で船長を見ながら座る。安定したすわり心地と景色を求めるなら操縦席側だが、風向きによってはびしょ濡れだ。
複雑な海岸線と岩を持つペキンの鼻には熟練した操作が必要だと聞く。そういう意味ではこの船長の運転は信頼できるということだ。しかし私は必ず安全の為にフローティングベストを着用している。これは皆がそうすべきだと思う。事故でもあれば、この釣り自体の存続に影響が出ることは必至だ。船が用意するとか しないとかではなく、身の安全を自分が守ると言うのは基本であり、事故によって渡船の釣が中止されない為の安全策でもあると思われる。
ペキンの鼻には二つの番屋が立ち並んでいたのだが、昨年秋の低気圧の大波で一つが崩壊してしまっていた。石村船長の番屋ではなく、熊の穴の所有する番屋が倒壊してたのだ。これらの番屋は倒壊したからといって立て直すことは環境省の法令よって不可とされているから、今残されている大輝丸の番屋がなくなった時点で、泊り込みでの釣りは禁止されるという。環境省のお役人が何度も下見をして、今現在でも、禁止の方向で動いているとの噂も流れている。またテント泊を強行した者がいたようだが、若熊が出没と時期が重なって、今後は禁止となった。しかしシーカヤックなどでのツアーでのテント宿泊は禁止ではないという。釣りの場合はカラフトの放置などによって熊がかなりの頻度で現れることから危険とみなされたわけだが、これは当然といえる。海岸には釣師が卵だけを抜き取った骸が異臭を放って放置されているのだから。
まぁそんな危惧される面もある釣りだが、カラフトの数とその景観には誰もが驚き歓喜の声を上げるだろう。正面から上がってくる朝日とシルエットが映し出される北方の島々。眼前の潮溜まりには無数の黒い鰭。これで釣れない筈はないのだ。 浜にはすでに3名の釣師が釣りをしていた。前日から番屋に泊りこんで釣りをしているのだ。カラフトがもっとも溜まっているのは二つの小河川の湾。ココには数百と言う単位なのか数千なのかはわからない位の鱒が溢れている。水量が少ない河川ゆえに遡上が困難となっているのだ。
この流れ込み付近でのキャストはスレが多い。もちろん口を使うこともあるだろうが、ちょっと引っぱればほとんどがひっかかる。背びれや腹、ともかく狩猟であれば何でもよい訳だ。これを釣りと捕らえるかどうかは個人の問題だからとやかく言うつもりはない。しかし僕はこんな釣りは希望していない。これらの黒い群を外れて歩くこと100m。潮が引けば判るが、岩礁がある区域へ釣り座を確保した。昨年もそうなのだが、黒い群ばかりの中へでも、新しい群は刺してくる。だからこの群の比較的Freshな個体群を狙うのだ。もちろんギンピカとは言わないけれど、かなりそれに近いとだけは言える。
目の前に溜まっている状況ではシングルハンドのほうが釣りやすい。少し沈め気味にしてゆっくりリトリーブしてくれば食い気のあるものは食ってくる。だが、さすがにこの時期になるとたいしたファイトはしなくなる。8番クラスのロッドであれば苦もなくランディングできるだろう。カラフトマスの場合はその走りつまりランが面白い。まっすぐに沖に向かって疾走するときのリールのサウンドが心地よく釣りをする喜びでもあるわけだ。だからあえて沖目にいるFreshに狙いを定める。この群は適度な間隔でやってくるので、すぐに釣れる訳ではない。言い訳がましく聞こえるが、数m離れて、黒い鱒を爆釣しているフライ釣師を見たとしても、焦ることはない。ゆっくりその時を信じてキャストとリトリーブを繰り返してゆく。
食い気のある個体は概ね着水後すぐにバイトしたり、数十センチのリトリーブでヒットする。WFフルラインの位置で飛翔が上がって、他の釣り人との違いが歴然として楽しい。同じような鱒サイズでもシングル釣師が簡単にランディングしてるそばで僕のラインは海面を切って走ってゆく。 しばらくしてシングル釣師がやってきた。僕の釣った鱒を見て驚いていた。「これ貰っていい?」もちろん快くプレゼントした。そしてこんなフレッシュは何処にいるのかと尋ねられたので、そこのかけ上がりだと教えると、彼もダブルハンドを持ち出してきた。そのポイントはシングルでは届かないのだ。 こうして9時くらいまで20本近くのカラフトマスをキャッチしたが、三分の二はまだまだ銀色個体で、スレはわずかに2本。それ以外は見事に口を使っていた。今年も出遅れて釣りを開始したのが5時くらいだった。船に乗るときに、「何時でやめる?」と言う話が出た。二人の釣師は「10時くらいで良いですよね?」と言うので「良いですよ、昨年も10時にはやめているので」と答えた。しかし現実には釣をやめていたのは僕だけで、後から来た3名を含めて8名の釣師は、11時まで釣り続けていた。僕は石丸船長と番屋の前で座り込んで話をして皆が止める時間までを過した。ふと見ると釣師の一人がカモメを釣っていた。
若熊駆除の話、番屋倒壊後の複雑な話や環境省の役人の話もその時に聞かされた。多くの問題を含んでこの釣りは成立している。遊魚組合の存在は、今現在では釣禁止の抑制効果はあるが、今後のモラル的な問題からこの組合自体が崩壊する可能性も含んでいる。またこの数年では密猟者が横行して、釣り自体に影響が出る可能性もありそうだと船長は心配していた。 近い将来この渡船による釣がなくなる可能性も否定できない訳だが、何とか残して欲しいと願わずにはいられない、地域、期間限定の釣りである。キープを前提としたものではなく、全てにレギュレートRegulateされたスポーツライクな形であれば残ってゆけるのではないだろうか、と僕は考えるのだが。 |