Episode・・ For Fishermen of Rainy Day
釣り場は話題の宝庫:白い悪魔
車を止めて、川を見下ろす。白い息はタバコの煙のように流れてゆく、気温は氷点下だろう。いつもよりは少し水が少ないようだが散発のライズはある。
気がつくと足元に大きな白い犬がいる。妙に愛嬌のあるひとみが可愛い。手を差し出すと鼻で突付く仕草をする。大きく尻尾がゆれている、どうやら歓迎されているようだ。
支度をして川へと降りてゆく、犬もついてくる。冷たいだろうに胸あたりまで川に浸っている。何とも不思議なやつだなぁと思っていた。
最初の鱒がヒットする。
「今日も好調!」つぶやいて犬を見ると興奮しているらしく大きく尻尾を振って川へ入ろうとしている。
「おまえも嬉しいか?」などと勝手なことをほざいてランディングした。なかなかのサイズ、画像を納めようとカメラを取り出した、一瞬の隙を突いて犬が鱒を舐めた?咥えようとしている。鱒は暴れて川へと戻っていった。
「オイオイお前は生魚は食わないだろう?アメマスなんか食ったって美味くないぞ」
と言ってもやつは尻尾を振って鼻を突き出す
「早く釣れよ」と言っているようにも見えた。
そこから始まったのは爆釣シーンとランディングのたびに鱒を追いかけ舐めまわす白い犬を足や体でガードして画像を納めようとしている健気な私の格闘シーンであった。
「オイッよせっ!」「馬鹿ヤメロッ」「食うな!」・・・・「お願いだからあっちへ行ってくれ」「よせっ、頼む」「勘弁してくれよ!」最後は土下座をしてお願いまでしたのだが、やつは大きく尻尾を振ってハァハァ、白い息を弾ませている。見上げた時、一瞬ニヤッと笑ったような気がした。その姿は白い悪魔そのものだった。
私はある作戦を実行することにした。作戦はいたってシンプルで車に戻ってお昼用のお弁当を一部やつに食べさせて、鱒より美味しい食べ物の存在によって注意を逸らそうとするものだった。お弁当に用意していたのは「ハムとレタスのサンドイッチ」、「シャケイクラの豪華おにぎり」「季節限定のカルビ焼き」であった。
やはり犬には肉を与えて満足させるのが一番だと思ったので1串百数十円のカルビ棒を差し出した。意に反してやつの反応は冷ややかなものだった。匂いをかいでみるが目をそむける。「なんだよ、毒なんか入っていないって!ほらぁ」と言って一口咥えてみた、「美味いのにぃ」私の口には十分美味く感じる。次に差し出すと渋々咥えている、しかしすぐに足元に置いてしまう。
「なんだよぉ食わないなら咥えるなよ」文句をいってもやつは知らん顔で白いコンビニの袋を眺めている。
「じゃぁおにぎり食うか?、これはイクラとサケだから美味いぞぉ」白い袋を開けると鼻を出してきた。
「ナイスな反応じゃないの!」私は少しだけ満足した。自信たっぷりに半分にして鼻の前へ差し出すと咥えた。しかしまた足元に落として尻尾を振っている。「何だよぉ、ばかぁ」
これが最後だぞと言って取り出したのは「ハムとレタスのフレッシュサンド」シャリシャリして美味いが犬の口には合わない代物だ。しかしやつの反応は違っていた耳が一瞬立ったような気がした。差し出した三角サンドをやつは貪るように食った。それもシャリシャリ言わせながら。
私は自分の作戦が正しかった事に満足して、「もうついて来るなよ、アメマスなんて食っても美味くないのだから」と言って再び川へ向かっていった。犬は車の横で黙って立ち尽くしていた。振り返ると犬はおにぎりとカルビも食っているようだった。
この時点で私は気がつくべきだった、私のお昼ご飯は全てなくなってしまった事に。そう、やつこそがここに来る釣人に同じ行為をしてお昼ご飯を奪い取る確信犯であったのだ、あの人懐っこい瞳の奥に潜むこの計画的な犯行はまさに白い悪魔と呼ぶに相応しいと私は思った・・・・・・っていうか、お願いだからそばに来るなよ。
2003年1月
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